山賊の備忘録

書評や音楽、日記等の雑記

沢木耕太郎「凍」を読んで

 

 記念すべき第一回の書評なので、好きな作家さんの本を。

 

紹介する本

沢木耕太郎 「凍」(新潮文庫)

最強のクライマーとの呼び声も高い山野井泰史。世界的名声を得ながら、ストイックなほど厳しい登山を続けている彼が選んだのは、ヒマラヤの難峰ギャチュンカンだった。だが彼は、妻とともにその美しい氷壁に挑み始めたとき、二人を待ち受ける壮絶な闘いの結末を知るはずもなかった――。絶望的状況下、究極の選択。鮮かに浮かび上がる奇跡の登山行と人間の絆、ノンフィクションの極北。
凍 (新潮文庫)

凍 (新潮文庫)

 

 

購入の経緯

 私が初めて沢木耕太郎に触れたのは、中学生のときに読んだ「深夜特急」でした。それまでは、上橋菜穂子獣の奏者」や「ハリーポッターシリーズ」のようなファンタジーを読むことが多かったので、初めて読んだノンフィクションものの「深夜特急」は衝撃でした。自分はわかりやすく影響を受けるタイプなので、バックパッカーに憧れ、『大学生になったら、東南アジアに行って1,2か月は放浪しよう!』と思っていました。(大学生になった今も同じ思いではありますが、大学在籍期間とCOVID-19の流行がちょうど重なってしまいました。人生って難しいですね。)

 大学に入って実家を出て、自分のスペースができたので本や漫画を買いあさるようになりました。在宅時間が増え、暇をつぶそうと近所の古本屋でたまたま見つけたのが「凍」でした。山岳ものを今まで全く触れてこなかったので、積読にならないか?と思いつつ購入。結果、山についての知識がなくても特に問題なく面白く読めました。

 

感想

 とても面白い。細かい描写ゆえ、グロ表現が生々しく万人にはお勧めはできないが、世界観に浸かりきって現実に戻って来られない感覚を覚える没入感のある作品でした。

 読書中には、ストイックに過酷な山に挑戦する山野井夫妻に対して『なんでそんなことしてるんだよ~ もっと自分の身体大切にしようよ~』と感じていたが、読了後には『過酷な挑戦をする気持ちもわからんでもない。』と思えました。命を賭して何かを成し遂げる、というような経験を自分がする事は一生ないと思います。このご夫妻のようにそんな選択をする方々もいるのでしょうね。

 山岳については全くの素人だし、ほかに山岳小説を読んだこともないので、この夫妻の山に対するストイックさが異常なのかどうかは、自分にはわかりかねました。が、雪山にも登るほど熱心に活動している山岳部の先輩曰く、「あの人たちは山に登ることに生きる意味を見出す山岳ジャンキー。」らしい。まあ、手足の指を失っても登ろうとするのだから、素人目に見ても尋常ではないと感じるのですが。

 小中高とある程度本を読んで好きなジャンルが固定してきていたので、読書欲を刺激される良い本に出合えたと思います。できることならば、作家さんに還元される新品の本を買うほうが良いのでしょうが、貧乏大学生は専ら古本です。この本も定価の3割ほどの値段で購入しました。気になる本は値段を気にせず購入できる経済力のある社会人になりたいものです。